新たなパンデミックがすでに進行中? 世界保健機関が名付けた「疾病X」とは
世界保健機関(WHO)が「疾病X」と名付けた次のパンデミックはいつ起きてもおかしくなく、すでに進行中かもしれないと感染症専門家は警告している。それは新型コロナウイルス感染症以上の致死性をもたらし、全世界で5000万人以上が犠牲になる可能性すらあるという。その「疾病X」の正体とは―。
「疾病X」とは、人への感染の原因として医学的に知られていない病原体により世界規模で引き起こされる流行病の代名詞としてWHOが使用している。WHOは2018年、「疾病X」を対策が存在しない最も危険な病原体リスト「優先疾病ブループリントリスト」に追加した。
英紙デイリー・エクスプレスは今週、「疾病X」の差し迫った脅威は、いつ爆発的感染が起きてもおかしくない状況で、2020年初頭に感染拡大した新型コロナウイルスよりはるかに大きな影響を与える可能性もあるとする専門家の見解を報じた。
2020年、コロナ禍で英政府のワクチン特別委員会を率いたケイト・ビンガム氏は、新型コロナウイルス感染症がようやく〝ほぼ日常的な病気〟とみなされていると述べ、すでにワクチンや良薬が開発されたインフルエンザも、1918~19年のパンデミックでは、全世界で少なくとも5000万人が死亡したと指摘した。これは、第1次世界大戦(1914~18年)の戦死者の2倍にあたる。
米ジョンズ・ホプキンス大学の統計によると、新型コロナの致死率は2020年2月の8.5%から2年半後の2022年8月には0.27%まで30分の1に低下した。
だが、ビンガム氏はすでに存在する多くのウイルスの中で、当初の新型コロナやインフルエンザのように多くの犠牲者を出すような病原体が多く存在すると指摘。「地球上の全ての生命体を合わせた数よりも多くのウイルスが複製し、変異し続けている。その全てが人類に脅威をもたらすわけではないが、多くがそうだ」と解説した。
ビンガム氏は、地球上には現時点で分類上、25種類のウイルス科の存在が確認されており、その中には世界規模の感染症を引き起こす数千もの恐ろしい病原体が含まれていると説明。また、推定約100万種類の未知の病原体が存在し、それらは生物から生物へと感染し、何百万人もの人の命を奪う恐ろしい規模の力を持っているとされる。
同氏は、「新型コロナウイルス感染症は世界で2000万人以上の犠牲者を出したが、ある意味、それがCOVID‐19だったことは不幸中の幸いだった」とし、「なぜなら、感染者の大多数が回復できたからだ」と付け加えた。
次に出現する「疾病X」は麻疹(はしか)のように強烈な感染力と、エボラ出血熱並みの致死率(67%)のパンデミックかも知れない。同氏は、「それが今、世界のどこかで複製され、遅かれ早かれ誰かが体調を崩し始める」と警告した。
今の時代、新型コロナをはじめ、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や09年の新型インフルエンザ(A/H1N1)など、さまざまなパンデミックが起きているのは単なる偶然ではないという。ビンガム氏は、その背景に「グローバリゼーション」「都市の過密化」「森林破壊」という3つの大きな理由があるとし、病原体にとって、種の間を飛び回るのには〝理想的な条件〟を生み出していると解説した。
世界連携でワクチン開発を促進するための官民連帯パートナーシップ「感染症流行対策イノベーション連合」のリチャード・ハチェット医師は「疾病X」について、「SF世界の話ではない」と前置きし、「これはわれわれが準備しなければならないシナリオだ」と英紙テレグラフに語った。
英ケンブリッジ大学出版局が発行する医学誌「感染管理と病院疫学」が2021年に掲載した論文は、「パンデミックの病原体が人工的に作られる可能性も無視できない」とし、「もし研究室での事故やバイオテロ行為によってこのような病原体が放出された場合、悲惨な『疾病X』を引き起こし、世界的な破滅的リスクをもたらす」としている。
TNL JP編集部