政府は20日、経済安全保障推進法の「特定重要物資」に関し半導体や蓄電池など11分野の指定を閣議決定した。対象分野で国内での生産体制を強化し備蓄も拡充する。そのための企業の取り組みには国が財政支援する。有事に海外から供給が途絶えても安定して物資を確保できる体制を整える。
半導体や蓄電池のほか、永久磁石、重要鉱物、工作機械・産業用ロボット、航空機部品、クラウドプログラム、天然ガス、船舶の部品、抗菌性物質製剤(抗菌薬)、肥料の各分野を対象とした。
いずれも供給が切れると経済活動や日常生活に支障を来す。重要鉱物では特定の国に依存しすぎないよう企業による海外での権益取得なども後押しする。
台湾有事をはじめとする中国リスクが念頭にある。11分野のうちレアアースなど中国を供給元とする物資は多い。企業にも中国依存から脱却できる生産体制やサプライチェーン(供給網)づくりを促し調達先の多角化につなげる。
各物資の安定供給のための目標や体制づくりなどの具体的な施策は、それぞれの所管省庁が公表する「安定供給確保取組方針」で定める。早いものでは年内から順次公表し、そのなかで企業への支援内容も示す。
企業は同方針を踏まえ、設備投資や備蓄、代替物資の研究開発など安定的に供給するための計画を申請する。承認されれば補助金や低利融資などを受けられる。企業からの申請は2023年3月から受け付けを始める予定だ。
政府は22年度第2次補正予算で経済安保推進法に基づく支援に充てる費用として合計1兆358億円を計上した。
特定重要物資の指定は5月に成立した経済安保推進法の4本柱のうちの1つだ。サプライチェーンを巡り、米中対立やロシアによるウクライナ侵攻、新型コロナウイルスの感染拡大などで寸断のリスクが浮き彫りになっている。
政府は指定にあたり4つの要件を掲げた。①国民の生存に必要不可欠②外部に過度に依存する③供給が途絶する可能性がある④安定供給の確保の取り組みが特に必要――のすべてを満たすことを条件とした。
半導体は新型コロナ禍で世界的な供給不足に陥ったが、これからさらに需要増が見込まれる。政府は電気自動車(EV)や家電の電力を制御するパワー半導体の生産強化に向けた設備投資などを支援する。
蓄電池はEVなどに使う基幹部品で再生可能エネルギー普及のカギを握る。車載用リチウムイオン電池の世界シェアは15年に日本がトップだったが、20年までに中国や韓国に抜かれた。蓄電池や部素材の国内生産を後押しし先端技術の開発も助成する。
抗菌薬や肥料は原材料を海外からの輸入に頼っているため国内生産や備蓄の取り組みを支える。永久磁石に使うレアアースなど重要鉱物は各国の獲得競争が激しさを増しており、企業の鉱山権益取得などを支える。
国内の発電の4割を占める液化天然ガス(LNG)は全量を海外に依存する。石油と異なり備蓄も難しい。ロシアのウクライナ侵攻後に国際的な需給が逼迫した。
23年から企業がLNGの余剰分を確保できる新たな枠組みをつくる。平時は余剰分を海外市場で売り、逼迫時は国内事業者に販売する。取引で損失が発生した際には国が補塡する。
海上輸送を担う船舶の部品も特定重要物資に指定する。エンジン、ソナー、プロペラの生産設備の導入を補助する。
高市早苗経済安保相は20日の記者会見で「国民の生存や生活、経済活動を守るために重要な物資の供給網の強靱(きょうじん)化を進める第一歩だ」と述べた。「関係省庁と連携して供給網の強靱化を通じた経済安保の確保に努める」とも語った。
www.nikkei.com