「普通のインフルより1000倍危険」 鳥インフル大流行ならゴーグルも必須に?
米国の乳牛の間で鳥インフルエンザのアウトブレイク(集団感染)の発生が続き、これまでに酪農従事者3人の感染も確認されている。ヒトからヒトへの感染は確認されていないが、専門家はパンデミック(世界的大流行)が宣言された場合、ウイルスの致死性の高さからマスクの着用やワクチンの接種、さらに安全ゴーグルの装着といった予防対策が必須になると警鐘を鳴らす。 ■「いつ起こるかの問題」 米疾病対策センター(CDC)はフォーブスの取材に、H5N1型鳥インフルエンザウイルスへのヒトや動物の曝露(ばくろ)を監視し、状況を注意深く見守っていると述べる一方、「現時点で公衆衛生上のリスクは低い」との認識を示した。 ヒトが鳥インフルウイルスに感染するのはまれだが、感染例は通常、ウイルスに感染した家禽と接触した場合に生じている。ヒトからヒトへ感染した例はこれまでのところ確認されていない。 米コロンビア大学の感染症専門家で疫学者のジェシカ・ジャストマンによると、鳥インフルウイルスは空気感染や、ウイルスに感染した表面との接触を通じて動物からヒトへうつる可能性がある。ただ、詳しい感染経路は未解明だ。 新型コロナのパンデミック時にCDCの所長を務めたロバート・レッドフィールドは今月、米テレビ局ニューズネーションの番組で、鳥インフルのパンデミックは避けられず、「起こるかどうかではなくいつ起こるかの問題」だと語った。 鳥インフルのパンデミックが宣言された場合に懸念されることとして、レッドフィールドは死亡率の高さを挙げている。世界保健機関(WHO)のデータによると、2003年1月から2024年5月までに確認されたヒトの感染例889件のうち、52%が死亡している。 WHOはパンデミックを、100万人単位で人命を奪い、社会を混乱させ、経済を荒廃させるおそれのある大規模な感染症流行と定義する。鳥インフルのパンデミックは、鳥インフルウイルスが少なくとも1つの国で複数のアウトブレイクを引き起こし、別の国に広がり、さらに少なくとも1つの年齢層で高い死亡率が示されるまでは宣言されないとみられる。 CDCは今年、鳥インフルの蔓延をより綿密に監視するため、H5N1ウイルスをA型インフルエンザの下水調査の対象に含めた。しかし限界があるため、H5N1ウイルスとほかのA型インフルエンザは区別できない。また、下水検査ではウイルスの発生源も特定できないので、ウイルスが検出されても出どころがヒトなのか、鳥などの動物なのか、それとも牛乳などの動物由来製品なのかはわからない。
目から感染する可能性も
■大流行ならどんな対策に? 専門家たちは、鳥インフルのパンデミックが宣言された場合、感染拡大を抑えるために予防措置を講じる必要が出てくると指摘する。 非営利の研究機関RTIインターナショナルの上級疫学者、ドナル・ビザンツィオはフォーブスの取材に、マスク着用やソーシャルディスタンス(対人距離の確保)といった措置をまず実施すべきだとの考えを示した。「ワクチン接種までの時間を稼ぐのに必要な介入措置」という位置づけだ。 コロンビア大のジャストマンは、目を保護するゴーグルといった新しい対策も有効かもしれないと話す。とくに、ウイルスに感染している可能性のある動物と日常的に接触する農場労働者には役立つかもしれないという。 米国で鳥インフルに感染した酪農家3人は全員、結膜炎や目の痛みなど、目に関連した症状を発症していたためだ。これは、ウイルスの付いた手で目に触れたり、目をこすったりすることで感染が広がる可能性があることを示唆する。ジャストマンは、フェレットの目に鳥インフルウイルスを曝露させると感染したというCDCによる最近の研究も引き合いに出している。哺乳類のフェレットは呼吸器官の構造がヒトと似ている。 一方、米テンプル大学のマチェイ・ボニ教授(疫学)は、鳥インフルのパンデミックが起こった場合の予防対策は新型コロナウイルスのパンデミック時とは違うものになるのではないかとの見方を示す。鳥インフルウイルスが変異してヒトの間で広がるようになった場合に、それがどのように振る舞うかは、専門家にもまだわかっていないからだ。ボニは「H5N1の致死率は(普通のヒトインフルの)10倍や20倍どころではなく1000倍だ」と警告する。 ■ワクチンの状況は 米食品医薬品局(FDA)に認可されている鳥インフルワクチンは、豪CSL傘下のセキーラスや、英グラクソ・スミスクライン傘下のバイオメディカル・コーポレーション・オブ・ケベックが開発したものなど複数ある。 米政府はFDA認可の鳥インフルワクチンを備蓄しているものの、国民全員に接種できるほどの数はない。ただ、セキーラスは、鳥インフルのパンデミックが宣言された場合、半年以内に1億5000万人分のワクチンを用意できる見込みだと説明している。
肉や卵、乳製品を食べる際に注意する点
テンプル大のボニはパンデミックへの備えについて「適切な行動は、単純に数億回分のワクチンをあらかじめ製造しておき、準備しておくことだと思う」と話している。セキーラスは5月、米保健福祉省から鳥インフルのパンデミックに備えたワクチンを製造する一社に選ばれ、ワクチン500万回分近くを米政府に納入すると発表している。 RTインターナショナルのビザンツィオは、新型コロナのパンデミックでは「誤った情報が多数出回り、それがワクチンの接種を進めるうえで問題を引き起こし、接種を忌避する人も出た」と述べ、公衆衛生当局と国民の間のコミュニケーションを改善する必要性を指摘した。 ■肉や卵、乳製品は安全なのか CDCの最新データによると、2022年1月から2024年6月24日までに、米国の48州で計9700万羽あまりの家禽(主に鶏)が鳥インフルエンザのため殺処分され、12州で121の乳牛群で感染が確認された。鳥と違って、乳牛は鳥インフルウイルスに感染しても大半が回復するようだ。 米農務省は、乳牛での鳥インフルのアウトブレイクは渡り鳥が持ち込んだウイルスが原因とみている。 専門家はウイルスが変異してヒトの間でも広がりやすくなるのではないかと警戒している。WHOの主任科学者であるジェレミー・ファーラーは最近、米国での牛の感染などに「大きな懸念」を示し、ウイルスがさまざまな経路で感染するように進化を遂げる可能性もあるとして、保健当局に引き続き状況を注意深く監視するよう求めた。 感染した肉を食べたヒトが鳥インフルに感染したことは確認されていないものの、農務省は安全な温度で調理された肉を食べるように呼びかけている。適切に調理するには、牛肉の塊肉なら内部の温度で約63度、挽き肉は約71度、鶏肉は約74度が必要とされる。 CDCによると、卵は内部温度約74度で適切に調理すれば、鳥インフルウイルスを含むウイルスやバクテリアがあっても死滅する。低温殺菌されていない乳製品の摂取も避けるよう勧告されている。
Arianna Johnson