経済)ジム・ロジャーズ「日本は英国のように没落する」

ジム・ロジャーズ「日本は英国のように没落する」ワタミの渡邉美樹氏が「日本の深刻度」を聞いた

シンガポールで「日本の危機」についてジム・ロジャーズ氏に聞くワタミの渡邉美樹会長兼社長(左)。ロジャーズ氏は今回の英国の危機を、歴史を踏まえて解説した(筆者撮影)
シンガポール在住、ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。世界三大投資家と言われるジム・ロジャーズ氏の『世界大異変 現実を直視し、どう行動するか』から日本人のための資産防衛術をお伝えしています。
今回は飲食チェーン大手・ワタミの会長兼社長である渡邉美樹氏がシンガポールを訪問。円安の行方から債務問題まで「危機にある日本」についてロジャーズ氏に聞きました。元参議院議員として日本の改革を訴え続ける渡邉氏でもあり、2人はすっかり意気投合したようです。

今のままなら1ドル=175円もありうる

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渡邉:最近の円安をどう見ていますか? 私は、日本経済について、経営者の中でも最も悲観的な見通しを持っているほうだと思いますが、来年は1ドル=200円程度、中長期では1ドル=300円まで円安ドル高が進む可能性もあると予想しています。

ロジャーズ:今の日本の政策は、明らかに円安を誘導しようとしています。私はもっと早い段階から円安になると予想していましたが、今は想像以上に円が持ちこたえており、逆に驚いているくらいです。

日本の人口は2011年以降12年連続の減少が確実で、その間、国の債務は増えるばかりです。これは意見ではなく事実であって、簡単な算数で計算ができます。一方で、日本は移民政策に非常に消極的ですし、日銀はずっと前から大量の紙幣を印刷し続けていることには変わりありません。ここまで持ちこたえている円ですが、今は、市場参加者はそのことに気がつき、冷静に現実を見始めているように見えます。

「円安はどこまで続くのか」と良く聞かれます。長期のチャートを見るとわかるように、1986年には1ドル=175円を上回っていました。私はその水準に戻る可能性だって十分にありうると思います。それは、日本は当時よりも巨額の負債を背負っており、財務状況が悪化しているからです。

最近の円安は日本が金融緩和を続けている中でアメリカが一気に政策を変更して金利を積極的に上げていることが大きな理由です。また、日本はエネルギーの輸入国です。原油などのエネルギー価格が急上昇し、インフレの影響で日本円が売られるという、負のスパイラル(連鎖)になっています。

渡邉:私は2013年のアベノミクスの負の影響が非常に大きいと思っています。日銀の大規模な金融緩和とは、平たく言えば、お金を刷りまくったと言っても過言ではありません。このまま金融緩和を続け円安が定着すると、日本は潰れてしまうと思います。

わたなべ みき/ワタミ会長兼社長。1984年現ワタミを創業。2013年に自民党から出馬(全国比例区)当選、参院外交委員長も務めた。2019年10月に経営に本格復帰、2021年10月から現職(筆者撮影)。

この状況から脱却するためには、経済成長しかありません。そのためには、規制緩和を徹底的にやり、農業など将来性のある分野に力を入れるべきだと思います。そのために参議院議員にもなり、6年間必死で戦ったつもりですが、残念ながらうまくいかず、日本は変わることができませんでした。

ロジャーズ:あなたの言っていることはまったく正しく、日本はすぐにそれをやるべきなのです。あなたが立ち上がっても何もできなかったというのは、まさしく今の日本の問題そのものなのです。多くの人々がフリーランチを食べ続けたいと思っているのです。

渡邉:多くの政治家は、厳しい改革をすることに消極的で、選挙民に甘い言葉を投げかけ、いつまでも政治家で居続けたいのでしょう。そのためには将来のことなど二の次にしておき、借金を続けるしかありません。今の日本を見ていると、ブレーキの効かない車が崖に向かっているように感じます。

ロジャーズ:私は日本の力が衰えて、将来、中国が日本をのっとってしまうのではないかと危惧しています。日本の企業が衰退する中で、今後、中国の企業がどんどん日本に入ってくるでしょう。あなたも日本食ではなく、今後は中華チェーンをやったほうがよいかもそれませんよ(笑)。

多くの日本人は中国企業で働くようになり、日本人は中国人と結婚をするようになるでしょう。やがて「中国語を話せれば日本で成功できる」ということが浸透すれば、中国語を学ぶ人が増えます。その未来は皆が望む未来ではないでしょうが、歴史的を遡ると私は不可避だと感じます。

日本が英国のようにならないという保証はどこにもない

渡邉:日本の困難は、いつまで続きますか。

ロジャーズ:例えば、「来年すぐに破綻」ということはありません。しかし、破綻を予測している賢い人たちは、資産の自己防衛や、中国向けのビジネスを始めるなどとといった自分なりの準備を早く進めるべきでしょう。国民が「何かがおかしいのは国のせいだ」と気づいたときには不満が爆発して、手遅れになるからです。

日本の円は、1960年代以降の「英国病」(第2次世界大戦後、同国で高インフレ率と経済のマイナス成長と社会福祉費などの増大による生産性低下などが同時進行した現象)に悩まされた英国同様、今後もジリジリと安くなるでしょう。しかし、一般の英国人が気づく前から通貨のポンド安は始まっており、気づいたときには遅すぎました。1976年にはポンド防衛のためにIMF国際通貨基金)に金融支援を求めるという事態に陥ったのです。

渡邉:私は今後の日本の財政について、破綻も含めてさまざまなシナリオを考えています。1つは国債の格付けが大きく悪化するということです。もう1つは、今行っている事実上の財政ファイナンスが許されなくなることです。また、あなたがおっしゃっているように、国内の反乱などがあるかもしれません。何らかのトリガー(引き金)があって、日本は将来、財政破綻に行き着くのではないかと危惧をしています。 

ロジャーズ:日本がこのままなら、今後、国債の格付け低下と、英国のようにマーケットから懲罰を受けるという、その両方が間違いなく起きると思います。英国のように、市場が荒れて、格付けも下がるでしょう。

渡邉:もし国が破綻をしたら、一部の経済学者たちはIMFの救済が入るし、さすがにハイパーインフレが進んだ第2次世界大戦後のドイツのようにはひどくならないのではないかという期待を持っている人たちがいます。例えばIMFはどのように動くのでしょうか。

サッチャー首相の改革の裏には「北海油田」があった

ロジャーズIMFがしっかり助けてくれるというような考えは完璧な間違いです。私はIMFの救済はあくまで短期的なもので、傷口に絆創膏を貼る程度のものだと思っています。日本が抱える長期的な問題を何も解決させることはないと思います。

20世紀前半まで、英国は世界で最も裕福な国でした。しかし、その後にお金を使い続け、1976年に危機に陥り、IMFの救済を仰ぎました。そして、幸運にも北海油田を見つけ、(すべての権益が英国のものではないとはいえ)1970年代の後半、本格的に稼働し始めました。

もし、日本が今、当時の英国の北海油田のように新たなエネルギー資源を見つければ、今後はなんとかなるでしょう。実際、英国は1981年から2005年までは石油の純輸出国となり石油が外貨の獲得に大きな貢献をするようになったのです。その結果、1992年から2008年まで、英国は連続してプラス成長を続け、期間中の2001年にブレア政権が「英国病克服宣言」を行うことになりました。ですので、石油、ウラニウム、金などの何らのコモディティーを見つけてください。

渡邉:英国ではマーガレット・サッチャー首相(1979年~1990年)が危機のときに出てきて、非常に強い財政改革を行いました。これは北海油田の発見との両輪だったと感じます。日本も成長産業や国民の意識の変革が大切なのではないでしょうか。

ロジャーズ:確かにサッチャー首相の改革は非常にアグレッシブでした。しかし、私は改革は北海油田があったからこそできたことだと思っています。北海油田がなければ、彼女は6カ月でクビになったのではないでしょうか。実際、サッチャー首相の前にも財政改革の必要性を説いた政治家はいましたが、彼らは長く持ちませんでした。ですから、英国を事実上救ったのは北海油田の発掘なのです。日本を救いたければ原油のようなコモディティーを発掘しないといけません。

渡邉:では、金や油田が見つからなければ、日本はどうすればよいでしょうか。

ロジャーズ:日本がいざ潰れてしまったときはじめて、人々はやっと渡邉さんやほかの警鐘を鳴らしていた人が言っていたことがわかるでしょう。しかし、私は改革を提言する最初の人になることはおすすめしません。国民は「こんなに厳しいのはできない。やりたくない」というからです。しかし、3人目、4人目が出てきたときには、国民がようやく慣れてきて、その言葉を聞いてくれるかもしれませんね。

日本の問題を「自らの問題」として解決せよ

渡邉地政学的に今後の世界をどのように見ていますか?

ロジャーズ:以前から言っていますが、私は、いちばんの脅威はアメリカだと感じています。アメリカは戦争が大好きです。独立して以来、15年ほどの期間を除いてずっと戦争をし続けてきたと言ってもいいくらいです。私に言わせれば、1945年が戦争に勝った最後の年で、あまり最近は戦争が得意ではありませんね。

しかし、アメリカの経済が悪化していく中で、今後、政権が戦争をするタイミングを探しにいくのではないかと危惧しています。現在のウクライナ情勢に関しても、私は発端をつくったのは、アメリカの政権からではないかと思っています。例えば、戦前の1941年にもアメリカは日本を世界の貿易から事実上締め出しました。アメリカがどこかの国や地域に喧嘩を売り、パンチをし続けたら、相手もどこかで相手も反撃をする可能性はあるのです。

私は今年ではなくても、やがて日本にもこうしたショックが降りかかると思います。そのときに、どういった思想の人がトップに上り詰めるのか、興味があります。

今の日本は、危機に陥る中でアメリカの言いなりになっているのではないでしょうか。景気が悪化する中でも、さらにアメリカに頼る傾向があると言わざるをえません。それは決して正しいことではありません。

このままでは、日本はアメリカの政権が将来引き起こす戦争の巻き添えを食らってしまう可能性が非常に高いと感じます。日本は何か問題があると、「アメリカはどう考えているのか」とすぐに気にするのではなく、アメリカから完全に自立するべきです。「これは日本、東京の問題だ。われわれが解決するんだ」と気づくべきです。

渡邉:残念ながら、今は、日本の将来に対する多くの警告に対して、ほんのひと握りのひとしか、反応をしてくれません。

ロジャーズ:賛同してくれる人が多くなるように変えていくには非常に長い道のりで、われわれは努力をしていく必要がありそうですね。

イタリア料理ひとつとっても、私は世界中のイタリアンレストランの中でも東京のレストランが最高級の品質だと思っています。このように、日本人は何かをやるときは世界一級クラスです。しかし、このままでいくと、破綻をするときにも一級クラスの破綻になるのではないかと恐れています。その前に私たちの警告に気づき、行動を起こしてくれる日本人が増えることを願っています。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

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