日銀新総裁、植田和男氏を起用へ 経済学者で元審議委員

政府は日銀の黒田東彦総裁(78)の後任に経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏(71)を起用する人事を固めた。黒田氏の任期は4月8日まで。政府は人事案を2月14日に国会に提示する。衆参両院の同意を経て政府が任命する。
副総裁には氷見野良三前金融庁長官、内田真一日銀理事を起用する。現在の雨宮正佳、若田部昌澄両副総裁の任期は3月19日まで。政府は黒田氏の後任総裁として雨宮副総裁に打診したが、同氏は辞退した。
14日の人事案提示後、衆参両院の議院運営委員会で正副総裁候補者から金融政策に関する所信を聴取して質疑する。衆院議運委では24日に実施する見通し。その後、両院の本会議で承認されれば、正式に就任が決まる。
戦後初めての経済学者出身の日銀総裁となる。日銀総裁は日銀と財務省(旧大蔵省)の出身者が続いており、民間出身は三菱銀行出身で1960年代に就任した宇佐美洵氏以来だ。
植田氏は日本を代表する金融政策の研究者で、1998年4月に東大教授から日銀審議委員に転じた。再任され、05年4月まで務めた。日本が1990年代後半からデフレに突入していくなか、日銀によるゼロ金利政策の導入などを理論面から支えた。その後、20年を超える長期にわたって続いた金融緩和にもっとも精通した一人といえる。
2000年のゼロ金利解除に反対票を投じたことでも知られる。日銀が今後、異次元緩和からの出口を探っていく中で、性急に出口に突き進むことはないだろうという安心感も選出の決め手になったとみられる。
10年続いた異次元緩和政策の検証が、次期総裁の最初の役割となる。雨宮副総裁は黒田体制下で金融政策運営を事実上取り仕切ってきた自分はふさわしくないと就任を固辞した。金融政策に深い知識と経験を持ち、より中立的な立場で政策の検証と修正に取り組める植田氏に白羽の矢が立った。
米マサチューセッツ工科大学で経済学の博士課程を修了し、国際的な経済学者である植田氏は海外の中央銀行や市場参加者との円滑な対話も期待できる。米連邦準備理事会(FRB)のイエレン前議長やバーナンキ元議長のように、世界では学者出身の中銀トップが珍しくない。
黒田総裁が就任直後の13年から始めた異次元緩和は円高是正などで効果があったとされるが、市場機能の低下や財政規律の緩みといった副作用も招いた。次期総裁は政府と緊密に連携し、日本経済や金融市場へのショックを避けながら金融政策を正常化に導くことが使命となる。
政策面では、長期金利を一定の範囲に抑え込む長短金利操作の修正の是非が当面の焦点になる。金利の上昇圧力が高まるなか、日銀は22年12月に長期金利の許容変動幅を0.25%から0.5%に広げた。国債の買い手がほぼ日銀だけという異常な状態となっており、変動幅の再拡大や同政策の撤廃などに踏み込むか、次期総裁の判断に注目が集まる。
ただ、金融政策の正常化を急ぎすぎれば金融市場にショックを与えかねない。超低金利に慣れた企業や家計へ与える影響への目配りも欠かせない。次期総裁は経済・物価情勢を慎重に見極めたうえで政策修正を探るとみられる。
植田氏は日銀審議委員在任時、00年8月の金融政策決定会合で、ゼロ金利解除の議長案に対し、リフレ派の故中原伸之審議委員とともに反対票を投じた経緯がある。学者出身でバランスのとれた見解の持ち主。自民党安倍派も反対には回らないのではないか。学者出身であるため、日銀プロパーの内田理事が組織運営を補佐。さらに、国際派として著名な氷見野前金融庁長官が支える構図になる。22年7月6日の日本経済新聞に掲載された「(経済教室)物価上昇局面の金融政策(上)日本、拙速な引き締め避けよ」で植田氏は「日本における持続的な2%インフレ達成への道のりはまだ遠いとみておくべきだろう」と述べていた。手堅い政策運営が予想される。