米国の金利の上昇が続き、経済が大きく揺れている。
2008年の金融危機(リーマン・ショック)以来、主要国の中央銀行は政策金利(短期金利)を非常に低く抑える超金融緩和策を続け、長期停滞と呼ばれる構造的な景気低迷の中、市場金利である長期金利も低い水準で推移してきた。これは資産市場を大きく歪(ゆが)め、コロナ禍で実体経済は良くないのに、株価や不動産価格は過去最高を更新する勢いとなった。金利がゼロに限りなく近づけば実体経済と関係なく株価や不動産価格が上昇することは、初歩的な金融理論が教えるところである。
問題は、そうした超低金利がいつまでも続くものではないということだ。実際、1年ほど前から、コロナ前には想像もしなかったようなインフレの中で、金利の急上昇が始まり、その影響で主要国の株価は動揺し始めた。日本国内で運用収益を上げられない邦銀はドル建ての債券で運用をしてきたが、ドル金利の上昇によって巨額の含み損を抱えるようになっている。ドルの金利上昇は今後ペースを緩めていくという見方もあるが、この先の展開は様子を見る必要があるだろう。
もっとも、これは海外での話で、日本ではほとんど金利が上がっていない。短期金利が動かないだけでなく、日本銀行による「イールドカーブ・コントロール」という長期金利(長期国債利回り)への介入によって、長期金利も0・25%に張り付いている。長短両方の金利が固定されているので、その分、資産価格も安定している。ただ、もし金利が上昇を始めれば、当然、株価や不動産あるいは債券の価格に大きな影響が出て、混乱が起こる。金融業界でもそうした潜在的なリスクを懸念する声は少なくないから、日銀もイールドカーブ・コントロールを簡単にはやめられない。
しかし、海外で金利が大幅に上がり、国内でも物価上昇率が高くなっている状況では、日銀といえども、市場の圧力に逆らって、0・25%に金利を固定し続けることは難しい。何より、市場マネーはこうした介入を絶好のチャンスと見て動く。低い長期金利はこれ以上、大幅に下がることはなく、介入を維持して現状維持するか、市場の圧力に屈して上昇するかどちらかということになれば、市場マネーは金利が下がって大きく損をする心配がなくなるから、売り(具体的には国債の売り)一本で攻め、これに対し日銀は国債の買いで防戦することになる。国債金利という長期金利をめぐる攻防である。日銀にとってなかなか厳しい状況だ。
いずれにしても、インフレの流れが続くようであれば、長期金利を固定するという金融政策はどこかで修正せざるを得ず、市場はそのタイミングがいつなのか探っている。それがいつかは別としても、日本でもいずれ金利は上昇せざるを得ない。物価の高騰は、米国ほど激しいものではないが、それでも金利上昇は経済のいろいろな側面に大きな影響を及ぼす。そろそろ、金利上昇への備えを始める必要がある。 (いとう もとしげ)