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小林哲
 
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核戦争による犠牲者の試算=米ラトガース大などの研究チームの論文から

 核戦争後に起きるとされる「核の冬」による食料不足で、最悪の場合、世界で50億人以上が餓死する可能性があるとする試算を、米国などの研究チームが発表した。核爆発による直接の被害を避けられても、その後の気候変動による影響は地球規模に及び、人類は壊滅的な打撃を受けるという。

 食料自給率の低い日本への影響は特に深刻だと警告している。

 核戦争による被害の試算は、冷戦時代からさまざまな研究がなされてきた。使われる核兵器の数などに不確実性が多く、正確な予測は困難だが、爆発によって大気中に飛び散った粉じんが太陽光を遮り、地球規模で気温が低下する「核の冬」の到来が予想されている。

 研究チームは、地球温暖化の分析に使われる最新の気候変動モデルを採用し、各地で起きる気温低下と農作物や漁獲量への影響などを分析した。

 核戦争のシナリオとして、別の研究チームによる研究を参考に、インド―パキスタンによる局地戦と、米ロによる各国を巻き込んだ世界大戦の2パターンを想定した。

 前者では、使われる核兵器の数や種類の違いで飛び散る粉じん量を500万~4700万トンの5段階に設定。米ロ戦では、広島型原爆の5~6倍の威力にあたる100キロトン級の核兵器が4400発使用される「最悪ケース」を想定した。

 その2年後の世界の食料生産を試算すると、局地戦ではカロリー換算で7~48%減少、米ロ戦では同80%以上も減った。

 世界的な食料危機で国際取引が停止されると、餓死者は最少でも2億5千万人、米ロ戦では50億人を超えると見積もった。食料の輸出入が続けば餓死者は減るが、各国で家畜用飼料を流用したり、生ゴミが出ない状態まで食物を有効活用したりしても、犠牲者の数は大きくは変わらなかった。

 試算した米ラトガース大のリリ・シア助教は「核戦争は防がなければならない。紛争に巻き込まれた国だけでなく、誰もが影響を受けることになる」としている。

 食料自給率の低い日本は、特に被害が深刻だ。

 試算によると、粉じんの発生量が最も少ないケースでも、国際取引が止まれば2年後に人口の約6割にあたる7千万人が餓死するという。食料自給率の高い国では、この条件では餓死者が出ない国も多く、日本だけで世界全体の約3割を占めることになる。

 さらに、米ロ戦が起きた場合は、日本の人口のほぼすべてが餓死するという結果だ。

 「核の冬」の研究で知られる気象学者で、ラトガース大のアラン・ロボック特別教授は「私たちの分析結果は、日本が核兵器禁止条約を批准し、米国の『核の傘』への依存をやめる必要があることを示している。もし使われることがあれば、日本にとって自殺行為になる」とコメントした。

 専門誌ネイチャー・フードに8月15日付で論文(https://doi.org/10.1038/s43016-022-00573-0別ウインドウで開きます)が掲載された。小林哲


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